史料番号⑤ フェロセメント・ヨット

 FRP(Fiber Reinforced Plastic:繊維で強化したプラスチック複合材料)で造られた帆船が主流を占めるなかで、メンテナンスコストが低廉で寿命が長い,複雑な形状も成型可能,岩礁等の衝撃に強いなどの特性を生かして、フェロセメント(金網モルタル)ヨットが建造された。

 艇の全長(Lpp)6.8m、各種強度試験等を行った後、昭和52(1977)年2月、建造した小野田セメント株式会社(現・太平洋セメント株式会社)から寄贈された。

 当時、艇の表面には塗装が施されていたが、剥離して素材を露出し、ひび割れ等は樹脂モルタルで補修した。搬入時は、大型構造物試験センター内に保存したが、「モノづくりの実際の教材」として、現在の棟外試験場に展示・公開した。

 「(東京都江東区)豊洲小野田セメントからフェロセメントヨットの運搬を行う。13:00現地着,14:30現地発,16:00大型構造物試験棟着。無事搬入を完了。なお、小野田セメント開発本部新製品開発研究所大西寛主任が立会い、運搬に際しては、山本扛重機小林俊晴氏,鈴木氏の協力を得た。」(大型構造物試験棟実験研究日日誌〔Ⅰ〕昭和52年2月25日から)

フェロセメントの構成材料

 フェロセメントは、鉄筋コンクリートの一種で、高強度モルタルと補強材として小径の鋼棒ならびに細い鋼線を組合わせた金網を用いた連続繊維による二方向強化複合材料である。

 フェロセメントに用いる金網は、通常Φ0.6~Φ1.2mm,目開き10.2~12.5mmの溶接金網,亀甲金網もしくは繊金網である。また、補強筋としてΦ3.2~Φ6.0mmの軟鋼もしくはPC鋼線を用いることが多い。

 艇の表面塗装は、通常、下塗りにエポキシ系、上塗りにポリウレタン系が使用される。

フェロセメントの用途-船体材料への応用

 現在、小型船舶の船舶材料としては繊維強化プラスチック(FRP)が主流であるが、船体の建造コスト,維持管理費の低減を図る意味で、フェロセメントの活用が期待された。

 小野田セメントでは、昭和50年に量産型フェロセメント製ヨット"YS-23"を開発した。ヨットの船体材料をフェロセメントとすることにより、船体に取付けるバラストを小型化することができるとともに、船体の動揺周期を若干長くすることが可能となり、乗り心地のよい船体を得ることができる。

 その後、昭和52年からフェロセメント漁船開発に着手した。

 フェロセメント漁船は「フェロセメント船暫定基準」ならびに「フェロセメントの強度特性ならびに耐久性」試験で得られた各種データをもとに設計,建造されたもので、建造後に所定の船体強度を示すか、確認試験を行った。

 試験に用いたフェロセメント船は、全長13.5m,全幅3.5mの定置網漁船である。試験方法は船体を2箇所で支え、中央部分と本船が走行中に受ける最大曲げモーメント(Mmax=14.5ton・m)と等しくなるまで押し上げた。

 フェロセメント漁船は、FRP漁船と比較して船体重量が15~20%増加するため、高速を求められる漁船には不利であるが、定置網船,巻網船のように、船体重量を必要とする漁船や船上で作業を行うため船体の動揺の少ないことを要求される漁船には最適である。

 近未来に向かって、フェロセメントの軽量,強靭ならびに耐久性を活かした様々な市場性のある商品の開発が期待される。

 

引用文献:西 晴哉 他『フェロセメントの強度特性、耐久性ならびに用途について』

     小野田研究報告 第35巻 第2冊 第108号(1983年)

 

 

                 板厚24mm        板厚19mm(中央部打継部)

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水圧試験後の表面ひび割れ図

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船体の縦曲げ試験

 

 

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ストリンガーと亀甲金網

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フェロセメント・ヨット "YS-23"

 

 

 

 

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フェロセメント・ヨット